2008年1月 8日

空気嫁(立川記念競輪)

昨年末に行われた競馬の有馬記念は伏兵馬マツリダゴッホが抜け出して完勝。
鞍上の蛯名正義騎手は『空気読めよ!』という客席からのヤジを受けて
「CKY(超・空気読めない)ですみません」とインタビューで答え、話題になったりもしたが
今回の立川記念で言えば準決勝まで3戦すべて
荒井の仕掛けに乗っておきながら毎回容赦なく荒井を差し切ってしまった紫原がこれにあたるのだろうか?

2日目の優秀競走ではゴール線の十数メートル手前に陣取った私の目の前を駆け抜けた時
すでに荒井を交わしていた紫原。
紫原が荒井を早く抜き過ぎた結果、直後に控えた好調・西田の差し場が生きる展開となり
私の車券は見事に紙屑となってしまったばかりだった。

そんな伏線があった立川記念の決勝は
単騎となった神山拓弥が中近の後ろからの組み立てとなったことから
荒井、村上、浜田によるきれいな3分戦の競走。
私は競輪というものは「走る以上誰にでも見せ場を作る機会はあるはず」と考える人なので
「選手の格」がどうこうという言い方は大嫌いなのだが
残念ながらこのレースでは濱田以下の中四国の選手はまさに「格が違う」という言葉がピッタリの凡走を展開。
村上、荒井といった一線級で戦い続けている猛者のすごさをまざまざと見せ付けるような見応えのある好レースとなった。

レースは濱田浩司が前受けの荒井を抑えて先行。
中団のインに荒井、アウトに村上で併走となったのを見て濱田がペースを緩めると
アウト併走の村上はそこから一気のカマシで濱田を叩く。

後方に置かれた荒井はレースを見過ぎることなく、間髪入れずに巻き返して渾身のBS捲り。
荒井がここで3日連続で紫原に喰われていることを気にして仕掛けを一歩遅らせてしまっていれば
最終3角からの村上の強靭な踏み直しの餌食となる可能性もあった訳だが
そんなことは全く意に介さず早め早めの巻き返しで村上を追った荒井の走りは
まさにS級S班の看板に偽りないすばらしい走りであったと言えるだろう。

最近は「勝ちに行く競走」という言葉の意味を履き違えてとらえる選手が多くなったことからか
「自分だけが届く仕掛けに徹する」がために実力ある選手が不発となるケースも多々見られるようになっており
車券を買う側の人間としては寂しい限りであるが
一線級の選手の競走においては、このレースでの荒井のように
「別線が仕掛ける前に」先んじて仕掛けることによって優位にレースを進めようという積極果敢な走りも目立ち
そんなレースを目にするたびに「さすが一流選手は違う」と唸らされているような気もする。
昨年末のグランプリで見せた小嶋敬二の積極果敢な早めの捲りなどはその最たる例だろう。

しかし、そんなすばらしい荒井の仕掛けをまたしても容赦なくブチ抜いたのは紫原政文。
最後はあわや後ろの島田竜二まで引き込んでしまいそうになるほどの
「差し」というより「4角捲り追い込み」と言っても過言ではないほどの情け容赦のない追い込みで
紫原が抜け出して1・1・1・1の完全優勝を達成した。


空気が読めない(?)紫原とは対照的に、3着入線の島田竜二がなんとなくゴール直前で緩めて
荒井を2着に残して「空気を読んだ」ように見えたのは気のせいかもしれないが
この結果、紫原→荒井→xの3連単の中で最も人気を集めた紫原→荒井→島田の3連単が成立。
これによって多くの車券師が助けられたことは紛れもない事実であろう。

ラインの先頭を走る選手は風を切って走り
2番手を回る選手は後続をブロックし、前を回る自力型選手をかばえるだけかばってある程度の着に残してやる。
3番手を回る選手は番手を回る選手が仕事に行って留守にしている最中に
後続の選手にインを突かれて「空き巣」に入られないようにひたすら内を締めて走る。
…それが競輪のラインにおける役割というもの。

勝ち上がりの段階では前を回る選手に気持ちよく勝たせておいて、決勝では容赦なくズブリ。
「タイトルを獲るなんて簡単ですよ。前を抜けばいいだけだもん。」
と冗談なのか本気なのか分からないことをグランドスラマー井上茂徳氏が言っていたが
競輪とは人間が己の考えに基づいて動くことによって行われる競技である以上
そういった「気持ちよく走らせる」ということも自力型の操縦士たる番手を回る選手には必要なことなのだろう。

番手の選手が前をかばいすぎる余りに差し損じるなどというのは
「八百長!」と言われても仕方がないみっともないプレーだが
前を残すも後ろを引き込んで前を沈めるも「番手のさじ加減ひとつ」という競輪が持つ独特の流儀からも分かるように
競輪という競技にはどうも根本に「KY」というものが付いて回っているような気もしなくはない。

競輪とは空気を読むことに始まり空気を読むことに終わる競技!?

車券を買う側の人間と実際に走る選手の意識はだいぶ異なるのが普通なようだが
この時ばかりは島田が空気を読んだ…ように見えたことによってかなりの車券師が助けられた
このレースはそんないかにも競輪らしいオチまでついた好レースであった。