2008年2月26日

閑散とした場内にも熱い心を持った競輪客は静かに潜んでいる(前橋競輪F1より)

前橋F1初日。
この日はアサイチから参戦も、なかなか車券的な流れが良くないばかりか
消化不良なレースばかりが続いたまま迎えた5レース。

このレースは地元の櫻井学(84期)、渡邉高志(栃木・84期)、栗林巧(青森・89期)による3分戦。
6着権利ということや、後ろに地元の駒村大生がつけたことから
櫻井は持ち前のスピードを生かしてのカマシ・捲りでラインを引き切る競走に徹すると見られていたが
実際は別線ながら同期の渡邉が一旦栗林を抑えて、櫻井が主導権を取るためのお膳立てをしてくれたのにも関わらず
櫻井は一旦前に出たものの流して栗林を出させる競走。

しかも先行態勢に入った栗林が打鐘で流すと、櫻井は最終的に空いたインを突いて
栗林ラインの3番手に潜り込む競走を見せて、番手の駒村はそれを追走できずラインは空中分解してしまう。
(ただしここでは栗林ライン3番手の野田章嗣が櫻井に位置を奪われた後も走路空けていたために
 駒村がシビアに位置を取りに行けば櫻井の番手をキープすることができなかった訳ではない。)

手島慶介ばり(?)の自在戦で栗林ラインの3番手に潜り込んだ櫻井は
流れからその後ろにはまり込んだ野田と櫻井を追走できず野田の後ろで息を潜めていた駒村を引き連れて
BSから捲って出て快勝。
2着には野田、3着には先行した栗林の動きを利した大橋秀人が入線した。

レース後は駒村大生が通過する場所のいたるところで
「駒村!けえれ!(帰れ)」という罵声のオンパレード。

確かに鐘4角でシビアに櫻井を追走しなかったところや最終3角から直線に向けての走りを見ても
あまり状態が良さそうには見えなかった駒村だが
私はと言うと正直なところ、後ろに同県の先輩がついていて、なおかつ6着権利の3分戦…
それに同期隣県の渡邉高志がお膳立てまでしてくれたのだから
それでラインを引き切る競走をしなかった櫻井の競走のほうが客側の立場としては
決して褒められたものではないのではないかと思いながら、その光景を見ていた。

この競走は言ってみれば最近の競輪特有の「自分だけが勝てればいい」というレース。
こんな競走をしていたのでは、はっきり言って競輪にラインというものが存在する意味がない。

「今日は流れも悪いし、こんなレースばかりじゃ見ていても面白くないな。」
そう思った私が席を立ち帰ろうとした頃、バンク内には勝った櫻井がウイニングランのために再び場内にやってきた。

プレゼント品が欲しいがために群がる観衆。
「櫻井君おめでとう」「よくやった」
恐らく3連単のみを100円玉で買っているような層にとってはこのレース結果はありがたいものだったのかもしれない。
しかし、私からしてみればここで櫻井が勝とうが負けようが、自分の車券が当たろうが外れようが…そんなことは関係なく
櫻井に本当にやってもらいたかった競走というものはこんな小さな競走ではないのだ。

「前橋のファンも落ちぶれたもんだよな…」
私がガッカリして客席を後にしたころ、突然ホーム側から観客の大きな声が聞こえてきた。

「きたねぇ競走やってんじゃねぇぞ!バカ!」

本当に競輪が好きな人は目先の金などよりも、競輪らしい人間ドラマを見に競輪場にやって来ている。
果たしてその言葉の真意が櫻井学の心に届いたかどうかは分からないが
ひとりの客のこのひとことを聞いたおかげで、私は出口に向かって進めていたその足を止め
再び客席に座って次のレースの検討に入ることにしたことは言うまでもない。