2008年8月13日
わずか数秒間の芸術(競輪アーティスト中村浩士・千葉・79期)
発走機に着いた中村浩士はうるさい松戸の客の矢面に立たされる9番車ながらも非常に落ち着き払った余裕の表情。
どの選手のものかは分からないがフェンスごしに選手のオリジナルタオルを広げる客のほうをチラッと見やるような余裕も見せると
やがて夏の強い日差しが照りつける空を見上げて精神統一を図る。
その姿を客席から見ていた私は、まるで一枚の絵画を見ているかのような
そんな気持ちになりながら空を見上げる中村浩士の姿に吸い込まれていくように見入ってしまった。
その姿を見ているだけで競輪場の喧騒がまるで耳に入って来ないよう。
私がそんな感覚に陥ったのはもちろん競輪を始めてから初めてのことである。
レースは中村浩士が目標とする海老根恵太からの車券が1番人気。
しかしその海老根は間髪入れずに果敢に仕掛ける別線の仕掛けに立ち遅れて後方に置かれてしまう。
金子が巻き返すと、空いた内に手島慶介が潜って一気に先頭に抜け出そうとする。
「手島のアタマか!」
誰もがそう思った矢先、大外を一気に紫色の閃光が駆け抜けて行った。
直線を突き抜けたのは最終バック9番手という松戸ではまず届くはずのない絶望的な位置にいた中村浩士。
中村が3角から車を外に出して追い込むと
目の前にはなんの障害物もない、まるで中村のために作られたかのような道が切り開けていた。
上がりタイム9秒0。
長らく鬼脚・井上茂徳が保持していた最高上がり9秒1を更新するバンクレコードに
場内からは神がかったとしか思えない中村の走りに対する驚嘆の声がそこかしこから漏れていた。
それはたった数秒間の出来事であったが、目の前に起こったことすべてが競輪アーティストの作り上げた芸術品。
かつてはスピードあるカマシ・捲りを武器に活躍し
追い込みに転向後はクラッシャー的な危険な走りで名を挙げた中村浩士。
「僕は競輪選手なのでタイムを出すことよりも勝つための練習をしたい」
自転車競技の選手ではなく競輪選手として勝負に徹する中村浩士の快進撃の序章は
もしかするともうすでに始まっているのかもしれない。
= 関連リンク =
・中村浩士公式サイト
・スピードチャンネル中村道場密着レポ(hiroshi-nakamura.netより)
・このレースのダイジェスト(松戸競輪ネットライブサイトより)