2008年12月 8日
メダリストの呪縛。(西武園全日本選抜競輪準決勝戦より)
西武園全日本選抜競輪3日目10レース準決勝戦は
永井清史・海老根恵太・渡邉一成の自力3車による実質的な3分戦。
浮き駒となった兵藤一也は道中は海老根・渡邉晴智の後位につけて周回する組み立てとなった。
このレースでメダリスト永井の番手を回ったのは「今回狙っているものはひとつだけ」という皇帝・山田裕仁。
となれば当然前を回るのがメダリストであろうがなんであろうが勝つためには番手捲りも辞さない覚悟で回っているはずである。
対する北勢は渡邉一成・成田和也・有坂直樹の並び。
こちらも同期ながら年齢が上の自在性ある走りが魅力の成田が番手を回ったため
いざとなれば番手捲りもなくはない組み合わせとなったがそこまでするのかどうかはかなり微妙なところ。
しかし競輪学校の同期生であり、尚且つ自転車競技を行う者としてライバル心がないはずはない永井清史と渡邉一成が
意地の張り合いをする可能性は十分であるし三番目のラインである海老根としてはどう走るのか思案のしどころ。
実に覇気の感じられない走りで後方のまま終わってしまうことも多い海老根だが
時折見せる気が入った果敢な走りというものが炸裂した際の海老根恵太という選手は
輪界屈指と言っても過言ではないほどの爆発的な力を見せることがある。
しかし自らがメダリストとして注目する立場ではあるものの
ここではやることはひとつしかない永井に対して先手争いを挑んで勝つのは実に難しいことであるし相手の2車は実質的なカマシ屋。
一歩立ち遅れればたちまち取り返しのつかない展開に陥ってしまう。
一体海老根がどう走れば勝ち負けになるのか?
何度考えても明確な答えが出しにくい実に難しい競走となったが
レースは他の自力2車の拙攻により、思いもよらない方向に転がって行くこととなる。
赤板で永井が上昇して打鐘で前受けの渡邉を下ろすと渡邉はすんなり引いて中団で海老根と並走。
その絶好の展開を見た永井が色気を出してスローペースのまま流し続けると
今度は永井の空けたインに海老根がとっさに切り込むと、永井の番手を回った山田裕仁の内でまさかのイン粘り。
山田は必死に海老根を内に放り込むも、それをこらえた海老根は労せずして永井の番手を奪取して
そこから番手捲りで見事南関ワンツーを決めたのだった。
先手争いも挑むことなくすんなりと引いた北勢は成田が自力に転じて捲ったものの全滅。
オッズからも「やることひとつ」と見られていた永井は役割こそ理解していながらも
自らも着を残さないといけないメダリストの呪縛にやられたのか、まるで自ら後続のもつれを誘ったかのような走りで
山田裕仁・山口幸二の両タイトルホルダーと共に没落してしまうという最悪の結果となってしまった。
本来の永井であれば持ち前のスピードを生かして気風よく逃げたであろうが
まるで自分だけ勝てればいいというせこい走りをしたかのようにも見えてしまうレースをやってしまったのは
前回のふるさとダービー広島の事故により、あらゆる人に迷惑をかけたことや
オリンピックケイリンのメダル獲得によってメダリストともてはやされたことにより
自らも必ず勝たねばならなくなってしまったことも恐らく関係したのだろう。
イチかバチかに賭けて専門外の横の競走に挑んで結果を出した海老根恵太に
決して気の緩みがあった訳ではないだろうが思わぬ展開で赤っ恥をかかされてしまった山田裕仁。
渡邉一成の拙攻により決勝進出を逸してしまった成田和也に全く出番がなかった有坂直樹。
目標不在の厳しい番組もキッチリと3つ目のイスを狙いに行った兵藤一也。
勝負する気持ちを前面に押し出して戦う者が勝つ競技。
それが競輪。
長身でがっしりした体格を持っていながらも非常に寡黙な青年で
闘志を前面に押し出す姿を見せることなどないというイメージのある海老根恵太だが
心に迷いがあった選手達が次々に敗れ去る中
勝負する気持ちを前面に押し出して前へ前へと切り込んで行き見事厳しい競走を制して見せた海老根恵太の走りからは
勝負に対する執念というものを感じたような気がした。
デビュー時から目先の結果よりもひたすら逃げて脚作りに徹し続けてきた男に巡って来た好機。
決勝ではいつもの「後方に引いて捲れるかどうかの展開待ち屋の海老根」ではない海老根が
どんな走りを見せてくれるのか今からとても楽しみである。