2008年12月10日
濃密な時間(西武園全日本選抜競輪決勝より)
最終ホームで今開催の主役とも言える平原康多が最終4角でケツを上げて仕掛ける態勢に入り
誰もがここで行ってくれるだろうと思った瞬間にすぐさまその持ち上げたケツをサドルに落として捲りに構えた途端
場内からは大きな溜息が漏れた8レース。
そして人気を背負い、今開催の広告塔にもなっていた伏見が番手絶好の展開も差しに行かず
まさかの結果にあっけにとられて口が開いたままになってしまったおじさんもいたほどの10レースと
共に主力と見られていた選手が消化不良なレースを繰り広げて場内が罵声の嵐に包まれた全日本選抜の最終日。
一旦は持ち直した天候も終盤になって悪化。
降り続く冷たい雨に加えて西武園ならではの冷たい風が吹き抜け
走る選手だけでなく客席の観客にも厳しい状況の中行われた決勝戦は山崎芳仁・海老根恵太・石丸寛之・荒井崇博による4分戦。
このレースで断然の人気を集めたのはグランプリを有利な条件で走るために
どうしても佐藤友和をグランプリに乗せたい山崎芳仁の引き出しを期待できる佐藤友和。
そのラインには先手を条件にして兵藤一也が付けて3車になった他は
すべてのラインが2車という北の二人にとっては非常に好条件な競走となったが
他のラインも個人的な結び付きが強そうで展開は流動的。
レースは先に前を切って中団に車を置きに行った荒井が山崎を引き出す展開で打鐘を迎え
これまでであれば決まって後方のままでいたはずの海老根恵太が
後ろを見ながら徐々に加速を開始する山崎芳仁のスピードが乗る前に一気に叩きに行くというまさに闘魂の走りを見せて一気に動き出す。
思わぬ早めの仕掛けに番手から出ることもできない佐藤友和は必死に海老根に強烈なブロックを食らわすが
海老根はそこから二の足を使って山崎を乗り越え先頭に。
しかしそれによって展開が向いたのは最終ホームからの海老根の仕掛けに乗ってうまくスピードをもらった石丸寛之。
今度は石丸がきれいに海老根の山を乗り越えるとゴール前は番手の三宅伸との直線勝負。
大歓声がこだまする中、抜け出したのは車券の売れ方としては最低人気の三宅伸だった。
必殺の4回転捲りを封印して目的意識を持って隊列を引いた山崎。
その山崎を引き出して中団をキープしたものの前のピッチが上がらず捨て石になってしまった荒井。
正直なところ山崎のスピードが上がり切る前に前を一気に叩きに行くラインがあるとすれば
随所で強固な結束の男の競輪を披露する岡山勢だと思っていたのだが
なんとその岡山勢に先んじて気合いの入ったカウンターアタックを食らわせた海老根恵太。
そしてその海老根恵太のスピードを強烈なブロックで鈍らせた佐藤友和。
更にその上を持ち前の卓越したスピードで乗り越えて行った石丸寛之。
そして最後はこれまで名うてのタイトルホルダー達の引き立て役に回るなどしてタイトルが取れそうで取れなかった三宅伸の優勝という感動のフィナーレ。
最近も何度となく特別競輪の決勝を現地で観戦している私だが
こんなにも熱狂できたすばらしい決勝戦は実に久しぶりだったような気がする。
見る者にも厳しい環境の中、客席からは優勝した三宅伸への声援が絶え間なく続き
レース後にバンク内ではなくサイクルシアターで行われた金網(透明フェンス)という障壁の介在しない
選手との距離が近い非常にアットホームな表彰式は実に和やかなムードで進められてすばらしかったと思うし
優勝の賞状を授与するお偉いさんも客席からの歓声に対して素直に「ありがとうございます」と反応したあたりは
三宅伸選手の優勝を皆で祝福しようという空気に彩りを添えたすばらしい対応だったようにも思えた。
わずか数十秒間の間にあらゆる競輪の魅力がギュッと凝縮されたような濃密な時間。
すべての選手が力を出し切って戦った競輪の競走は実に面白い。
これがあるからこそ競輪はやめられないのである。
= 関連リンク =
・勝手にスポーツコメンテーター森下太志編 2008.12.12