2009年2月 4日

よし!狙ってみろ!(取手競輪F2・A級チャレンジ決勝より)

「これは狙える」
チャレンジレースの決勝戦ともなれば競輪競走とはかけ離れたケイリン競走ばかりで
私としては正直なところまともに車券を買う気になどなれないレースも決して少なくないのだが
このレースだけはアタマ固定で狙ってみたいと出走表を見た瞬間、そう思った。

この日、私が向かったのはイメージキャラクターも必死に競り合う取手競輪場。
その中でも私が一番興味を持ったのはA級チャレンジの決勝戦だった。

8・小笹慎太朗(東京・93期)-5・須田和夫(東京・40期)-6・谷田部幸男(東京・68期)
7・寺林正秋(宮城・93期)-3・鹿内翔(青森・95期)  9・佐藤康恭(福島・94期)-4・橋本豊(福島・55期)
2・吉澤賢(千葉・94期)-1・鈴木達也(茨城・81期)

直近のバック本数は吉澤17鹿内3寺林15小笹14佐藤14。
人気は「寺林さんラインから」という佐藤康恭からに集まったが、それはあくまでも寺林が後ろを引いてくれればのお話。
宮城の24歳・寺林の後ろは青森の23歳・鹿内。
鹿内は捲り・追い込みを主体として在校成績5位という優秀な成績を残した選手ではあるが
敢えてここで寺林が鹿内を引っ張らなければいけない理由は全くないし、現状ではそれほどすばらしく切れる脚があるという印象もない。

ここで一番脅威なのは佐藤の捲り。
寺林が行かなければ当然自分で動いて行くだろうし、現状の力を見れば小笹や寺林ではまず相手にならないだろう。

対する吉澤はメンバー的にも今後自在屋としてやって行くためにはすんなりと好位を取れなければいけない存在だが
スピードの上がらない力の劣る先行屋を逃がしてそのラインの後ろを回っていたのでは
その先行屋が別線にカマされて叩かれた瞬間にすべては終わってしまう。

佐藤を後方に置いて先に仕掛けるか、佐藤を早めに行かせてその後ろからズブリと行くか。
勝つためのイメージは大体そんな感じだが、実質たった1周だけの勝負であるケイリン競走は
包まれたり前に障害物が詰まってスピードが落ちたらその瞬間に負けが確定する世界。
チャレンジレースなんて…と一笑に付すのは簡単なことだが、実際にはそれほど簡単な世界でもなく
こうしてラインが細切れ戦になればなるほどに卓越した能力がなければ優勝することはできないなかなか厳しい世界なのである。

いよいよA級チャレンジ決勝の選手紹介。
ライン2車でゆっくりとバンクを駆ける吉澤選手は
かつて花月園競輪場で特別昇班のかかる弟弟子の岩本俊介の番手を回った際の緊張の面持ちとは対照的に
今にも鼻歌でも歌いだしてしまいそうなくらいのリラックスムード。

あとはなるようにしかならないし、車券は当然初志貫徹で吉澤アタマ固定で購入。
金網前に陣取って手に汗握りながらレースを見守ることにした。

レースは寺林-鹿内が上昇して小笹を下ろし打鐘を迎え、寺林ラインの3番手で内・小笹、外・吉澤が並走。
佐藤は吉澤ラインの後ろから様子を伺う。
先行というよりはカマして来たラインへの飛び付きを狙っていた感のある寺林はひたすら流した上で最終ホームで発進。
そこを3番手外並走の吉澤が叩いて先制。
寺林は吉澤の番手を回った鈴木達也のところに飛び付きを狙うもヘッドパンチは見事に空振り。
返す刀で鈴木が寺林を一発放り込むとそのまま寺林は後退して行った。

最終1角でカマシのような仕掛けで飛び出して行った吉澤は出切ったあとで
後ろから仕掛けが飛んで来ないのをいいことに一旦流しての先行。
最終バックで小笹の捲りに併せてスパートすると小笹の捲りは番手の鈴木の横までで終了。
2センターから4角まででは完全に吉澤の逃げ切り勝ち濃厚な展開となった。

「勝てるぞ!」
そう叫びながら金網を握り締め最終直線の攻防を見守ると
外から鋭く伸びてきたのはメンバー中唯一の敵と見ていた佐藤康恭(さとう・やすゆき)。

ゴール線上は両者ほぼ同時の入線だったが、ゴール後ガックリする吉澤とは対照的に佐藤は雄叫びを上げながらガッツポーズ。
写真判定の結果、94期同期対決はタイヤ差を持って佐藤康恭の初優勝。
これで3連続優出となった吉澤賢の初優勝はまたしても成らなかった。

1車強い車がいるだけにまともに逃げたのでは勝てないし
内に詰まったり、弱い先行選手のピッチに乗ってしまったら負けというレースだったが
動きのないレースを自ら動かし、番手を回った鈴木の力も借りて
先行逃げ切りペースを作り上げてしまったという吉澤のこのレースの組み立てはまさに最善の策と言える作戦。

私のような人間が何度レースをシミュレートしてみても、このような作戦は思い浮かばなかっただけに
初優勝の夢は潰え、車券は外れてしまったものの
シミュレーションを超える見事なレースぶりにただただ感服するばかりだった。

剛脚というイメージはないが、しなやかな動きと流麗なペダリングが非常に印象的な吉澤賢。
これからは「自在になんでも」という割に積極的な競走が目立つのは
やはりアテネオリンピック日本代表という超一流アスリートとしてのプライドがそうさせているのであろうか?

競輪は車券を買う側もギャンブルなら実際に走る側もまさにギャンブルそのもの。
非常に感覚的なものが結果を支配する競輪という名のギャンブルをやる私にとって
イチかバチか腹を決めて勝負する選手の走りにはなによりも感銘を受ける。

「よし!狙ってみろ!」
そんな思いを託して買った車券に応えるように選手が果敢に攻めてくれた時には
車券で勝っても負けても、このようにこの上ない感動と興奮が待っているのである。